2012年4月26日木曜日

【清水和夫メールマガジン】第7号 アーカイブス 2011.3.25

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清水和夫メールマガジン~自動車大航海時代~

2011年3月25日 第7号
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スバルに見る航空機と自動車の相似
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2002年の春、私は富士重工業の航空宇宙事業本部を訪問しました。そして、この日を境にスバルが作るクルマを見る私の目が変わりました。いや、もっというと戦前から培われてきた日本の工業の底力を知りました。それについて二回にわたって感じたところをお伝えしたいと思います。今回はまず富士重工業が自動車を作るに至った経緯について書きたいと思います。

私が感じているスバルの不思議な魅力を言葉で表すと「独特の走行感覚」です。しかし、その本質はもっと深いところから湧き出ているように感じます。たしかにスバルのハンドルを握ると、他のクルマとの何か「違い」を感じることができます。それではスバルの魅力の源流はどこにあるのでしょう。自動車メーカーをより深く知るには、まずそのバックグランドを理解するべきです。そう考え、私はスバルの航空宇宙事業本部を訪れることにしました。
スバルの前身が中島飛行機という事実はあまり知られていません。自動車メーカーでは、最近ホンダがジェット機を独自に開発しましたが、飛行機と自動車を長い間作ってきたメーカーは世界でもスバルだけです。こうした技術は時代の巡り合わせもあって、不幸にも戦争に利用されたのですが、それでもゼロ戦や戦艦大和を独自技術で開発した私達の大先輩には学ぶべき点がたくさんあると感じました。

航空機から自動車への転換

規模を見ればスバルは小さな自動車メーカーですが、ヨーロッパでもアメリカでも独特の存在感をもっています。それはしっかりとした個性を持ち、独自の技術が評価されているからです。
2002年から社長を務めた竹中恭二社長は「スバルのルーツは中島飛行機の時代に遡るかもしれません」と、自動車雑誌(『NAVI』2001年9月号、二玄社)のインタビューで述べました。航空機作りから出発した自動車メーカーは、サーブやBMWなどが有名です。日本では三菱重工と富士重工が航空機メーカーの歴史をもっていましたが、三菱自動車が三菱重工から分離した今、航空機と自動車を作る国内メーカーは、スバルだけといえます。
スバルの前身であった航空機メーカー、中島飛行機は1917年に起業し、終戦の1945年に解散するまで日本最大の企業のひとつでした。中島飛行機は戦争に向かう日本のなかにあって、陸軍戦闘機「隼」や「疾風」、海軍艦上攻撃機「九七式攻撃機」、海軍高速艦上偵察機「彩雲」などいくつもの傑作機を開発しました。また、海軍零式艦上戦闘機(ゼロ戦)に採用された空冷星型14気筒エンジン「栄」、疾風や紫電改、銀河などの軍用機の標準エンジンとなった星形18気筒エンジン「誉」など、航空機エンジンメーカーとしても多
くの実績を残しています。
戦後、富士重工業と社名を変えて自動車メーカーとして再スタートしましたが、中島飛行機の航空機エンジニアの何名かはそのまま富士重工業に残り、スバルというブランドでクルマを開発することになりました。

本当は中型車を作りたかった

それから13年後の1958年に初の量産型軽自動車となるスバル360が誕生しました。1969年に生産を終えるまで39万台余が販売され、自動車メーカーとしてのスバルの基盤を作るだけでなく、高度成長期という時代の波にのり大成功したといえます。
しかし、実は発売こそされなかったのですが、スバルが本当に作りたかったのはスバル1500、コードネーム「P1」と呼ばれる中型車でした。P1の開発は1951年に始まり、百瀬晋六さんがこれに携わりました。百瀬さんはGHQの資料室に通いながら、自動車の設計を学んだ中島飛行機の技師です。
スバル1500は日本初のフルモノコックボディを持ち、フロントサスペンションにはウィッシュボーンにオイルダンパーを組み合わせ、リアはリジットアクスルにリーフスプリングとオイルダンパーを組み合わせました。最初の試作車は1954年2月に完成しました。当時はまだ未舗装の道路が多かったため、耐久性がとても重視されていた時代ですが、乗り心地はとても好評で、ボディやサスペンションの耐久性も他のクルマよりも秀でていたといわれています。
しかし、P1は当時の通産省の許可が得られず、お蔵入りとなりました。日本政府は効率的な戦後復興を考え、普通車はトヨタ自動車に任せ、スバルには国民車構想の軽自動車の開発を担当するように指示したのです。スバル360はP1の技術の流れを汲み、当時としては斬新なモノコック構造を採りました。リアにエンジンと駆動系をまとめることでコンパクトな外寸ながら大きな居住スペースを得ました。これは、フォルクスワーゲン・ビートルを参考にしたといえます。
この合理的なパッケージングにより、それまでの小型車の限界を打ち破り、前述のようにひとつの時代を切り拓きました。小型車の常識を覆せたのは、“飛行機屋”ならではの発想があったからではないでしょうか。
航空機は無駄な重量と空間を嫌います。さらに航空機の開発には法則があるといいます。その法則とは、性能が決まると形が決まる、ということです。つまり徹底的な機能主義です。「フォーム・フォロー・ザ・ファンクション」(形状は機能に従う)という近代建築のテーゼは、航空機にもぴたりとあてはまり、それは自動車にも通じるのです。軽く小さい合理的な国民車。スバル360は多くの人にモータリゼーションのきっかけを与え、親しまれたのでした。
次回は航空宇宙事業本部に取材に行った際の出来事を述べます。

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2012年4月10日火曜日

【清水和夫メールマガジン】第6号 アーカイブス 2011.3.10

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2011年3月10日 第6号
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ジュネーブショーとデトロイトショー、そしてイギリスの不思議

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毎年恒例の自動車ショーといえば1月に開催されるアメリカのデトロイトショーと3月上旬のスイスのジュネーブショーです。大西洋を挟んだこの二つの自動車ショーは共に歴史が長く、20世紀の自動車の発展に大きな影響を与えてきました。

前者は100年前に庶民が買える価格で自動車を大衆化させたヘンリー・フォードの本拠地であり、はじめて自動車の大量生産に成功した地として有名です。ここで生まれた自動車、つまりT型フォードが、アメリカ大陸で飛躍的に普及し馬車から自動車へ扉を開いたのです。

一方のジュネーブショーは自動車メーカーのないスイスというお国柄か、“自動車メーカー”のショーではなく“カーディーラー”のショーとして長い歴史を持っています。しかも世界中から富裕層が集まる地域なので、高級車や高性能車が主役です。ガソリン自動車を考案したドイツメーカーの切磋琢磨もあって、欧州では技術競争が活発化しながら自動車が発展したのです。

つまり大衆化した自動車の祭典であるデトロイトショーと高性能車が主役のジュネーブショーはとても対象的な関係といえます。その対比を考えたときにふと思ったドイツとイギリスの自動車産業の発展と衰退について書いてみたいと思います。

ドイツの機械工業化

デトロイトとジュネーブ二つのショーになぜそのような方向性の違いが生まれたのでしょうか。
20世紀のアメリカは二つの世界大戦で混乱した欧州とは異なり、産業が順調に発展し巨大化しました。その後も長い間、デトロイトから吐き出される大量の自動車は莫大な利益を生み、その資本に裏付けられた工業力がアメリカの大きな柱となっていました。しかし、2010年、GMが破綻したことで新しい産業構造に転換する必要が生じました。
一方のドイツはアメリカのような大衆化よりも技術革新が優先的に行われてきたため、いつの時代も自動車の未来を作る準備をしてきといえます。


そもそも自動車作りがそれぞれの国の工業、産業基盤レベルそのものに依存しているということは見落とされがちな視点です。もっとも、これは自動車だけでなく、航空機や宇宙事業、軍事産業など高度な工業技術が必要と思われる分野にことごとく該当する事実といえるでしょう。
自動車の例でいえば、鋼板を供給する製鉄産業、多彩な種類のゴムや樹脂を供給する化学産業、工作機械、アルミ鋳造産業、電子・電気産業、ガラスなどの基盤が存在しなければ、自動車メーカーにどんなに優れた設計者がいたとしても、優れた自動車を作ることは不可能です。

それでは自動車を生んだ国の機械工業化はどのようにすすんだのでしょうか?ドイツでは、徹底して良質なモノづくりにこだわるマイスター制度が存在していました。クルップ社、テレフンケン社、ダイムラー・ベンツ社、マイバッハ社、ポルシェエンジニアリング社など、それぞれの分野での独創的な技術力が存在していました。しかし、戦前のドイツは個々を見るとトップレベルのものも少なくなかったのですが、それは国内各地に分散しており、国家レベルでの量産体制が不十分でした。これは日本とよく似ています。

その反省を踏まえて、戦後ドイツと日本の工業化の共通点は官民一体の戦略となりました。敗戦から立ち上がるべく良質な自動車を開発し、世界中に販売することで経済を立ち直らせたのです。そして現在のドイツ自動車産業は、つねに技術的なアドバンテージを追求し続け、戦後の高出力、高性能自動車のリーダーとしてのポジションを築いたのです。この一貫した哲学や理念がドイツの自動車産業の真髄といえます。

潜在能力は高いイギリス

これと対称的なのがイギリスです。現在でこそほとんどの自動車ブランドがドイツやインドに吸収されてしまいましたが、戦前のイギリスはさまざまな分野で技術的なアドバンテージを持っていました。航空機におけるロールズ・ロイス・マリーン倒立V型12気筒エンジンは、第二次世界大戦を通しての最高傑作エンジンでしたし、電子技術やジェットエンジンなど、ドイツと同様に先進的な技術を多く持っていたのです。しかし、それらはやはり国内分散型で一
極集中することはなかったのです。

第二次世界大戦直前まで技術分散型だったイギリスですが、ドイツとの戦争が始まろうかという時、国家的危機に直面したと感じたイギリスは、誰も予想できないほどの底力が発揮したのです。信じられないほど短期間で、あの伝説的な戦闘機スピットファイアとマリーン・エンジンを量産できたことは、イギリスの当時の能力の高さを物語っているでしょう。イギリスがもっとも光り輝いていたのは、アメリカ同様に戦後間もない1950~60年代ではないでし
ょうか。この頃、イギリスではおびただしい数の大小メーカーが存在し、それ以上に部品メーカーが多くすそ野の広さを持っていました。

しかし、イギリスは戦勝国となったがために戦後もとのスタイルに戻ってしまったことは皮肉といえます。自動車の基本原理にかかわる技術は、1930年代までに出尽くしたといわれますが、その多くはイギリスにありました。ガソリン自動車を発明したのはドイツですが、トップレベルの技術を持っていたのはむしろイギリスだったといえるかもしれません。しかし戦後になっても生産設備が思うように更新されず、量産化、低価格化に関する技術の面で後れ、これが経営をおびやかしたことがイギリスの自動車産業が衰退した大きな要素と考えられます。


ここで注目したいイギリスの特徴が、先進技術や熟練技術が特定の企業ではなく在野の広い範囲に分散し、それぞれが独自に命脈を保っているという点です。これは日本やドイツと決定的に異なるところといえます。つまり、イギリスでは技術が企業主体ではなく個人のものとして存在していたのです。

大量生産では日独米に後れをとっているものの、イギリスは少量生産が得意です。ほとんどのF1チームがイギリスに本拠を構えていることからもわかります。単品でいいものを安く作る工業風土こそイギリスの特長なのです。

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